英語の数字って、私たちにとって実はあまり難しくありません。
カタカナ英語として長いあいだ耳に馴染んできたから、つい「知ってるつもり」になりやすい領域です。
でも、本気で発音に向き合い始めると、意外なところに落とし穴があります。
その代表が one。
どうして ‘one’ が /wʌn/(/w/+MUSTARD+/n/)になるの?
スペルからは絶対に想像できないこの音。
気になりはじめると止まらない、小さな大きな謎です。
実はこの謎、
英語のスペルと発音の歴史がぎゅっと凝縮された現象。
さあ、一緒に “one の旅” を紐解いてみましょう。
まず、中世の英語(1300年頃)までは、
“one” は /oːn/、日本語の「オーン」に近い音で発音されていました。
そして、この one に 強勢(stress)が置かれないとき
たとえば one apple や one man のようなフレーズでは、
弱い位置の one が自然に an apple / a man の形へと変化していきました。
やがて、1400〜1600年あたりになると、
この /oː/ の音が、/oʊ/ (ROSE BOAT)の音に変化し始めます。
この変化の名残は、現代英語にもくっきり残っています。
‘atone’ /əˈtoʊn/ (MUSTARD+/t/+ROSE BOAT+/n/)
‘alone’ /əˈloʊn/ (MUSTARD+/l/+ROSE BOAT+/n/)
どちらも、もともと “at + one” / “all + one” の組み合わせから来ており、
かつての /oːn/ → /oʊn/ の変化をそのまま保持しています。
そしていよいよ本題。
なぜ’one’ が /wʌn/(/w/+MUSTARD+/n/)になったのか。
これは実は、
‘no one’ と言うフレーズの影響と言われています。
この’no’は/noʊ/と言うROSE BOATの音ですが、しっかり発音し切ると、実は語尾が/w/の方向に向かうのがわかります。
つまりこんな流れです
/noʊ(w) oʊn/
このとき、後ろに続く ‘one’ は弱勢位置(強勢が置かれない)にあるため、本来の/oʊ/が弱化してMUSTARD/ʌ/の音に変化。
さらに前語の /w/ が次の語へ「連結」し、気づけば one の頭に /w/ が張り付いた形で発音されるようになりました。
結果として生まれたのが、
現代の /wʌn/ という発音です。
こんな、誰もが知っているシンプルな単語なのに、
背後には 700年以上の音の変化と言語の歴史がぎゅっと詰まっています。
こんなふうに、普段何気なく使っている one にも、
実はこんな歴史が隠れていたなんて、ちょっと面白いですよね。
たまにはこういう “英語の裏側” をのぞいてみるのも、
発音学習のいい気分転換になるかもしれません。
※飽くまで一説です。
