「発音記号って覚えたほうがいいんですか?」
私がよく受ける質問の中の一つであり、答えに困る質問でもあります。
「覚えて損にはならないとは思いますが・・・」
と、いつもあまり無理におすすめはしない、という立場をとっています。
勿論、それぞれ人には学習法の相性というものがあるので、
これは素晴らしい!と大活用している方がたくさんいるのも知っていますし、
辞書を見れば常に表記されているし、作った人はすごいと思います。音を「見える」形にしたのですから。
でも、私があまり無理におすすめをしていないのにはいくつか理由があります。
まず最大の理由は、単純に、私自身が発音記号に苦戦したからです😅
苦戦したというのは、記号自体の呼び名が難しかったり、全部覚えられなかったり、
最終はその記号がどんな音を表すのか結局よくわからなかったということです。
でも、最近になり、もう少し具体的な苦戦した理由のようなものがわかりはじめました。
辞書によって違う
まず、発音記号のパターンにいろいろな種類があることを知りませんでした。簡単にいうと、「雨」「アメ」「あめ」のように、同じ音なのに表し方、使う記号が違う、という感じです。辞書によって採用している記号が違ったり、二つの音を一つにまとめてしまっていたりするのです。
そんなことを知らない私は、「ん?また新しい記号が出てきたぞ」「ん?これはさっき見たものと違う気がするぞ」「ん?これは違う音だったのか?」という具合に常に迷走していました。
地域によって違う
これはよく知られていることだと思いますが、大抵の辞書には[米]と[英]とアメリカ英語の発音とイギリス英語の発音の場合のそれぞれの発音記号が出ています。1つの単語に対しても少なくとも2つの違った発音があるということです。どっちで覚えたらいいの??とまたまた迷走です。
さらに、もっと細かい話をすると、同じ国内でも地域によってもアクセント(方言、訛り)があったり、人種や年齢などによって音も変わったりするため、実際に聞こえる音と必ずしも辞書の発音記号で表す音が一致しないことが非常に多いのです。
話される音(Spoken English)とは常に一致するわけではない
辞書の発音記号は個々の音を並べて表記しているだけで、実際に話される音とはギャップが出てきてしまう、一致しない、という点を見ていきましょう。
①Pre-fortis Clipping
これは、強い無声音の前にくる母音の音の長さが変わるという現象です。
例えば
カバンのbagは
bが表す/b/ 、aが表す/æ/、gが表す/g/を合わせて/bæg/
背中のbackであれば
bが表す/b/ 、aが表す/æ/、ckが表す/k/ を合わせて/bæk/
という風に表記されます。つまり、この二つの単語は最後の音以外は全て同じ、となっています。
でも、実際に音として発音した時には、bagの/æ/とbackの/æ/の音の質は同じでも、長さに違いが出てくるのが自然です。
これを知らずに発音記号だけ見て発音しようと思うと、無理が出てきてしまいます。
②Invisible /w/ and /y/
これは、発音記号としては記載されていないこの二つの音が、発音した時に自然に出てくるという現象です。
例えば、
協力を意味する ”cooperation”は辞書ではこのように表記されています。
/kəʊˌɒpəˈreɪʃn/ (Oxford)
/kəʊˌɒp.ərˈeɪ.ʃən/ (Cambridge)
/kəʊˌɒpəˈreɪʃən/ (Longman)
実は、この最初のかたまり(syllable)と二つ目の間には/w/の音が自然に出てきます。これは1つ目のsyllableの母音の性質と次にまた母音が続くという状況で生じる現象なのですが、またもやこの記号だけを見て発音すると、この/w/が自然に出てくるのを妨げてしまします。
③Limited aspiration
aspirationとは息の吹き出し(送気)を意味しますが、/p/や/t/や/k/の様に一瞬で息をパッと出して発音する子音で使われます。
(口の前にティッシュをかざすと動く、あれです。)
そして、この3つの音の前に無声摩擦音(voiceless fricatives)と呼ばれる種類の子音があると、送気をしない音に変化するという現象です。少しややこしいので例で見てみましょう。
例えば、
速度を意味する”speed”は
/spiːd/と表されます。
/p/はもちろん送気を必要とする(aspiration)音ですが、この直前の/s/は摩擦音なので、実際に/p/の発音をするときには、自然と送気がない/b/の音に変化します。つまり、実際に発される音は/sbiːd/という感じです。
でも、ネイティブではない人はこの/p/の音をしっかりと発音してしまい、より不自然になってしまうということが起きてしまいます。
④ n-controlled
これは実際にあった話なのですが、生徒さんとのセッション中にColor Vowel® Chartを使ってBLACK CAT(/æ/)の音の出し方をやり、色々な単語で練習をしている時でした。
「Thank youの”thank”のBLACK(/æ/)の音が、”black”や”cat”のBLACK(/æ/)の音と違う気がするんですけれど・・・変ですか??」と生徒さんが言います。
これはまさに、自然に起きる現象に生徒さんが気づく(聞こえる・発する)瞬間です。母音の直後に子音の/n/のがくると、その母音の音そのものを変化させる現象があるからです。
これは、毎回新しい生徒さんがこのレッスンのたびに気づくポイントでした。
これも、発音記号だけを見て発音しようとすると無理があります。
後半は少しマニアックな内容になってしまいましたが、要は言語というものは実際に話される音と辞書で表される音にギャップが生まれるものである、ということです。
「おうさま」や「えいが」を日常では「おーさま」や「えーが」のように発音したり、
「ん」の音は「かんぱい」「はんたい」「にんげん」で全て異なっていたりするように。
結論
英語の発音を「話すため」に学習する場合、このように、実際に発される音と辞書(発音記号)での音にはギャップが生じている、という事実を知っておくことは重要だと思います。
それを知った上で、知識のベースとして発音記号を調べたり、覚えたりした後、できるだけたくさんの実際に発された音を聞いて、自分の耳を頼りにインプットしていくことがより自然な英語への近道ではないかと思います。
